きょうのにっき






 





 






 





 











自転車道中膝栗毛











 







 







 






















Bike Museum













































妻もペダルも踏み越えて 広島死闘編









 








 















 











第1回「売れ残りのチネリに一目惚れ」

※写真をクリックすると拡大、別角度の写真がご覧になれます。


by ホラガイ近藤



 
「今年、LOOKはどうなンじゃろうねェ」
「キャノンデールのランプレもエエらしいじゃない」
「いやあ、買うンじゃったらデローザのKINGじゃろォ」
きょうもきょうとて仕事からの帰途、広島市有数のプロショップ、〈サイクルフォーラム〉に立ち寄ったワシ、サラリーマン、42歳、妻子アリ。
 そんなワシの耳元に、店長が、常連客が、さらに元ロードレーサーにして常連客のリーダー、マイケル山口氏が、次から次へと悪魔の囁きを耳に吹き込んでくる。
 そろそろほしいニューフレーム、ますます組みたいニューバイク。
〈ワシの気分としては当初の予定通り、コルナゴC-50(LIGHTER Version)
に落ち着こうか、というところなんじゃけど〉
 ……と、山口氏宛てにメールを書いていた矢先、突然背後に感じた殺気! その視線の先には当然、クリッとした瞳に非難の炎を燃え上がらせた嫁さんが。
「フォーラムでサイズとか色とかの話、しんさんなよ!『近藤さんが言いよったけえ仕入れましたけどォ』……ゆうような話になるのは分かっとるんじゃけえね!」
 うーむ、前途多難じゃ。


 ワシが運命の店「サイクルフォーラム」を訪れたのは、5年前の2000年、3月のとある日曜日。普段からこの店の前を歩く時には少しテンポを緩めて、ショーウインドウを眺めとった。この店は所謂「プロショップ」として主にロードレーサーを扱っているのだが、春先には、通勤通学に良さそうなチョットカッコいい街乗り用のクロスバイクが目に付くようになる。
 一番目立つところに置いてあったのが、チェレステカラーの「Bianchiバックストリート」。
(軽うて走りやすそうじゃのォ。通勤用自転車(ママチャリ)もボロになってきたし、ソロソロ買い替え時じゃわい。どうせ買うなら、次はカッコええやつにしよ)
 その日はBianchiのカタログだけを手にして帰った。
 それから数週間後の4月初旬、嫁さんと子供を連れての散歩帰り。度胸を決め、思い切って余り気の乗らない様子の嫁さんをフォーラムに引っ張り込む。


 2人で入口から順番に自転車を見ていきながら、
「ネッ。カッコエエ自転車がいっぱいあるじゃろォ?」
「ほお(そう)じゃねえ。カッコはエエけど」
「でも?」
「でも、普通には走れんようなのばっかりじゃねえ」
 なんだかんだ言いながら、店の奥へと入って行く。
 と、あのスチールパイプの「Cinelli Proxima」が!
今風の派手なカラーリングのロードレーサーがズラリと並ぶその端に、置いてけぼりにされたかのようにひっそりと佇んでおるではないか!
 パッとしないカラーリング(チタンシルバー)と流行遅れの細いスチールフレームに、パーツもカンパとはいえ廉価版ミラージュをメインにベローチェとコーラスの混成。見向きもされずに放置されていたのが分かるような気もするし、それゆえに愛情も湧く。
 永く在庫品となっていた様子で、販売価額は「9万8000円」。その値ごろ感のある価額設定にも魅かれた。
 そして、もうひとつ自分の目を引いたものがシートピラー。上にいくにつれて細くなる、カンパ・コーラスのエアロタイプじゃった。繊細なクロモリフレームを引き立てるその美しさに参ってしもうたンよ。いわゆる一目惚れというヤツ。
 冗談めかして、嫁さんに言うてみた。
「これ、エエねえ」
「ウン、カッコエエねえ。これ(シートピラー)が綺麗なねえ」
「……買おうか?」
 この一言のジャブに、たちまち嫁さんが反撃の猛ラッシュ!
「何を言いよるンね。泥除けも付いとらんし、タイヤは細いし。こオよオな自転車でどこを走るンね!買うのは通勤用の自転車じゃないンね!自転車に10万円も出してどうするン! 馬鹿じゃないン!」
「……まあまあ、あんたは先に帰りンさい。ワシは、もうちいと見てから帰るケエ」
 嫁さんを先に帰らせ、溜め息をつきながら店長と自転車談義。
 もともと、ワシは中学、高校時代、サイクルスポーツやニューサイクリングの発売を毎月心待ちにして、どのページにどの店の広告が出ているかまで覚えとるよオなチャリキチじゃった。それが、いつのころからか〈自転車はママチャリで十分〉と思うようになってしもオて、そオよオな生活が久しく続いとった。ほいじゃがよオ、このチネリを見た途端じゃわい……。



「エエですねェ。チネリにカンパ。それも、イタリアンカットラグにユニクラウンフォーク」
「チネリのスチールパイプの量産品としてはこれが最後でしょう。もうチネリのスチールはオーダー品のスーパーコルサだけですからね。ホイールもカンパ。お買い得ですよ。」
「う〜ん。エエのォ、この色。最近あまり見かけませんよね」
「いい色なんですが。今はこうゆう色は流行らないんで作ってないですね。好きな人もいるんですが、そういう人は最初からオーダーしてしまう」
「自分はこうゆう色が好きなんですよ。シートピラーも美しいし。こうゆうのは見たことが無い」
「これも、もう作ってませんからねえ」
「フレームサイズも520ですか。ギリギリかなあ。」
「いやあ、大丈夫ですよ。決めましょう。この自転車の良さが分かる人に乗っていただきたい。買ってください!」
「う〜ん、…分かりました。…お願いします。」
「ありがとうございます。それでは、来週の金曜日にはお渡しできるように整備しておきます。バーテープも交換しておきますが、何色にしましょうか。」
「黒がいいです」

 店に入ってから、1時間足らずの出来事じゃった。
 家に戻る。
 嫁さんと目が合った。
「買うた(こうた)」
「エッ?」
「買うた」
「え、エエ〜ッ? ホントに買うたン?」
「ウン」
「そうようなことになるんじゃあないか思うて心配しとったンよ」
「……」
「アンタは先に帰りンさい、言われた時にイヤ〜な予感がしたんよ」
「……」
「どうするン。ああよおなものを買うて。どこに置くン。外に置いとったら盗られるよ!」
「玄関に置く」
「エエ〜ッ? 玄関? やめてエや!」
「置く」
「……もう知らん!」

 いやあ、それから納車の金曜日までの5日間の長かったこと。
 3日目くらいからは、待ちきれなくなり仕事帰りに「サイクルフォーラム」の作業場に顔を出し、前日の夜には明かりの消えた窓越しに、目を凝らして中を覗いていた。事情を知らない通行人からは怪しいヤツと思われたに違いない。
 そして、約束の金曜日。仕事を終えて「サイクルフォーラム」に向かうとチネリは完成していた。初めて穿くクリート付きのシューズとビンディングペダルに戸惑いつつも愛車に跨る自分に大満足。
 早速、明日はサイクリングに出発だ!
 あまりに嬉しそうなワシを見て、やっと嫁さんも諦めたらしい。
「分かったわいね。玄関に置きンさいや。その代り部屋を汚さンといてよ!」
 子供の頃からの憧れだったイタリア製の「ロードレーサー」を手に入れた喜びに有頂天のワシ。
「ウンウン、大丈夫。部屋は汚さん。雨の日にロードレーサーで走るわけないし、雨の日の翌日も走らん。濡れた所は走らんけえ、汚れるわけがないわい!」
 この時にはまだ、自分が、雨の日にドロドロになりながらレースで走るような人間になるとは思いもせず……。
 これがその後、わが自転車道楽? 死闘に続く死闘? の始まりとなったのである。

(続く)

2005 / 12 / 15 (木)



 | next >>

元新聞記者 上野さんのひとりごと





















 















ブログ招待席















 





 




 


 






 




member profile


稿



COPYRIGHT (C) akasaka-cycle.com All rights reserved.